「自閉症を含む軽度発達障害の子をもつ親のために」

柿谷正期監修 佐藤真司、瀬田剛、馬場悠輔共著/アチーブメント出版/2007年


「来たよ、“自閉症が治る!”系マユツバ本」という批判的スタンスで読んでいます。この文を書いて3日、アップするか悩みましたが、これも勉強を始めたばかりの私が素直に受け止めた感想なので、アップします。最初に断わっておきますが、本書で紹介されている療法を試行されている親御さんを貶める意図はまったくありません。

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発達障害は生まれつきとは限らず、原因(物質・環境)がある!というスタンスで、発達障害を「治す・改善させる」アプローチをいくつか併記しています。GFCFダイエット療法により息子の自閉症が治った!というアメリカ人女性の手記にはじまり、グルテン小麦たんぱく)&カゼイン(乳たんぱく)、軽度三角頭蓋、化学物質、水銀…などを原因としてあげていきます。「発達障害の専門家でもなかった私たちがこの領域に迷い込んで来て、少しでも提供できるものがあると確信して(監修者)」執筆されたそうです。

下記の点で、私はこの本を看過できません。

まず、論の土台が不誠実だと思います。一例ですが、「第1章 GFCFダイエット」の離乳食の項で参考文献にあげられている西原克成『普及版赤ちゃんの生命のきまり』。これは過度に母乳を礼賛し、2才以降まで母乳のみの子育てを推奨する極端な主張で知られる“西原式”の教本であり、“西原信者”とやゆされる信奉者がいることで乳幼児をもつママのあいだでは有名です。「第4章 自閉症と水銀」の参考文献である竹内久米司・秋津教久『経皮毒』は、健康商品のマルチ商法で荒稼ぎしているニューウェイズアメリカ本社は倒産)のプロパガンダ本です。見ればすぐわかるような典型的なマユツバ脅迫本ですが、タイトルだけ麗々しく並べてあれば内容はわかりません。偏った土台の上に建った家屋は地震がくれば倒れます。先行する研究者が得た知見を受け継ぎ、新たな知見へと結びつけていくという研究者の基本倫理が、この本の著者たちにあるとは思えません。

次に、あまりにも飛躍が多く、なぜその“原因物質”が発達障害に結びつくのかの根拠が薄弱なままに、脅迫的に“原因物質”の恐ろしさだけをあげつらっていると思います。「第3章 環境問題と自閉症」では、「ADD、AD/HDといった症状がなぜ起こるのかは、いまだ定かではありませんが、原因の一つとして化学物質が考えられています」と述べた直後から、化学物質過敏症についての説明になだれ込んでいきます。発達障害と化学物質とのあいだには「考えられている」という主語も出典もない脆い架け橋がかかっているだけ。そしてその実例は、なぜか化学物質過敏症統合失調症だと誤診された女性の話なのです。ぜんぜん違う病気じゃん!

さらに、もっと大切なことは、発達障害をもつ子どもたちへのスタンスです。発達障害の“原因”をことさらに(見本市的に)探すことは、突き詰めれば「原因さえ取り除けばこの子はよくなる」、つまり子の人格と発達障害とを分離して捉えようとしていると感じられてしまうのです。原因探しに拘泥するのではなく、障害をも含めた全体をひとつのものとして捉え、なるべく生活しやすいように支援するほうが大切だと私は思います。でも、将来へわたる不安のなかで藁にもすがりたい親が、この手の情報へ引き寄せられる気持ちも痛いほどわかります。そうした親たちに、それこそ「悪魔を祓えばガンが治る」的な価値観で情報を提示することが果たして正しいのか。そもそも、こんな程度のアプローチでどうにかなるほど、自閉症スペクトラムは単純なものじゃないはずです。

私が個人的に笑ってしまったことも書きましょう。「第5章 視覚機能と発達障害」では、両目で一つのものを見る両眼視機能が未熟な場合、目の疲れが集中力低下や勉強嫌い=LDをひきおこす、とあります。ところで、私はもともと両眼視ができない不同視で、つねに・どんなときも世界が二つばらけて見えており、目の疲れと平面的な世界の見え方は幼年からの深刻なコンプレックスです。でも学校の成績はつねにトップクラスでした。私の「両眼視機能の不全」と成績は、どう連関するっていうんでしょう?もう因果関係がめちゃくちゃです。

GFCFダイエット、水銀キレーションなどに効果があるのかないのか、現時点では私は何もわかりません。自閉症協会が批判的スタンスに立つ一方で、実践例も広がっているようですし、今後も注目していこうと思います。いろんな考え方はあるでしょうが、親でもある私の考えを述べることを許していただけるならば、その子にはその子の生を全うする権利があり、親にできるのは全力で子を支援することだけだと思います。